偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「そうでもしないといつかお前を本気で是枝さんに奪われそうだから」


「貴臣くん? まさか」


「近所の昔馴染みの女子に対する態度にしては度を超えているだろ」


面白くなさそうな声で彼が言い放つ。


「それは私が妹みたいだからで」


「妹、じゃない」


瞬時に否定した彼の声はどこか緊張すら孕んでいる。


「藍と是枝さんは他人だ。結婚だってできる。なによりあの人は俺の知らない藍を知っているし、お前もあの人をとても信頼しているだろ」


「でも、それは……」


「藍が是枝さんに恋愛感情を抱いていないのは理解しているが、気になるんだ。嫉妬ばかりする自分が本当にカッコ悪くて情けない」


暗い車内なので彼の表情の変化ははっきりとはわからない。

でもなにかを誤魔化すように髪を片手で描き上げる仕草に心が乱された。

いつも余裕綽綽で私を翻弄する櫂人さんとは思えない。

でも今の彼はいつもの颯爽とした姿より何倍も魅力的だ。


本当にこの人は私をどれだけ好きにさせるのだろう?


「是枝さんが藍を妻にするとか考えるだけで腹立たしい。藍は俺のものに決まってる」


もう限界だった。


ぱんぱんに膨れ上がった恋心がはじける。

言葉にならない気持ちが込み上げて止まったはずの涙が再び溢れ出す。
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