偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍、着いたよ」


車を降りるように促された場所には見覚えがあった。

彼が車を停車した場所はハナ薬局京橋店の、最寄り駅前だった。

薬局は閉店している時間だし、周囲の店のほとんどがシャッターを下ろしている。


「ここが白坂さんと私になにか関係があるの?」


隣に立つ彼に尋ねる。

ここは住宅街から少し離れているせいか、この時間帯に人気はほとんどない。


「ここに白坂さんが訪れたの?」


私が京橋店で勤務する機会はあまりない。

社員の急な休みが入ったときくらいだ。


「いや、違う。藍、半年くらい前にここでタクシーの順番を譲らなかったか?」


「半年前?」


問われて記憶を探る。


「酷い雨が急に降りだした寒い日で、駅にはタクシー待ちの行列ができていた。なかなかタクシーが来ずに一時間ほど待ってやっと数台が戻ってきていた。藍はその最後の一台に乗ろうとしていた」


その言葉に朧気だった記憶が蘇る。

確かにそんな出来事があった。

京橋店のメンバーの半数以上がインフルエンザで欠勤になり、急遽私が店長に頼まれて派遣された。

人手が足りないせいもあり、早番だったが退社もずいぶん遅くなった。

身体も疲れているうえに、悪天候で電車のダイヤも乱れに乱れていた。

店長からはタクシーで帰宅するよう促され、列に並んでいた。
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