偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「俺はその瞬間、生まれて初めて誰かの存在に心が揺さぶられるのを感じた。きっとひとめ惚れだった」


「まさか、そんな……」


ただハンカチを貸して順番を譲っただけで?


「お前にとっては何気ない行動だっただろうが、あの出会いが俺を変えたんだ」


さあっと夜風が私の髪を揺らす。

櫂人さんは乱れた私の髪を耳にそっとかけた。


「私を捜していたというのは作り話じゃなかったの?」


信じられない告白に鼓動が暴れだす。


「なんで名前を尋ねなかったのかと何度も悔やみながらお前を必死に捜したよ。あの日から藍を忘れた日はなかった。そして俺の好きな色は青色になった」


『以前青色には思い入れがあると、伺った記憶がございます。理由は存じ上げないのですが』


ふと中西さんの言葉が脳裏に浮かび、彼の深い想いに胸が震えた。


「ハンカチをずっと返せなくてすまない」


「ううん、元々返してもらうつもりはなかったから……それより、私を捜してくれていたならどうして白坂さんとお見合いをしたの?」


どうも彼の話が矛盾しているような気がして問いかける。


「白坂さんは祖父が勧めてきた縁談相手だった。いつものように断るつもりだったが、藍に面影が似ていて驚いたんだ。もしかしたら血縁者ではと思って見合いを了承した」


「それってちょっと酷い気が……」


思わず本音を漏らす。

いくら私を捜していたとはいえ、白坂さんに失礼だ。
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