マリオネット★クライシス
「この悪魔! サディスト! パワハラ反対! 横暴だぞ!」
「あらあらぁ? 栞ちゃんのMV出演をアクトライツに承知させたら、今後一切私に口答えしない、音楽番組もインタビュー取材も全部OK、アジアツアーワールドツアーどんと来い、どんなハードスケジュールも呑む、って約束したのは誰だったかしらぁ?」
「そ、そこまでは言ってないっ!」
青ざめてぷるぷる首を振るジェイが、なんだか可哀そうになってきた。
「まぁまずは、こうして愛しの彼女と両想いになれたのは誰のおかげか考えて、恩人の私に遠慮なく美しい歌声を聴かせて頂戴ね、小鳥ちゃん。あ、栞ちゃんはゆっくりホテルで休んでね!」
ニコニコ笑顔で言うだけ言うと、颯爽と踵を返して車へ乗り込んでいく。
えぇ……あの広い部屋に、一人で泊るの?
「く、っそ……」
横目に伺うと、そこにはぐぐぐって拳を握り締め恨めし気に毒づくジェイ。
うーん……彼が頑張ってるのに、一人だけ寝ちゃうのは申し訳ないよね。
そもそもわたしのせいで振り回しちゃったんだしな……
気を失ってた時間のせいか、全然眠くないし。
「ジェイ、わたしも一緒にスタジオ、行っていい?」
レコーディング見学させて? ってお願いすると、パッとその顔が光り輝いた。
そのまま「栞!」って勢いよく抱き着かれる。
「く、苦しいよジェイ」
「ダメ、オレをこんなにドキドキさせる栞が悪い」
「何それっ」
お互いの背に腕を回して笑い合いながら、わたしはふと……思いついたことを口にしてみた。
「後悔はない? 御曹司っていう立場を捨ててしまうこと」