子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 先ほどよりも早口で言うと、保名さんは私に背を向けようとした。

 彼が久黒庵の後継ぎとして挨拶回りを必要としているのはわかるが、そうなると私はここでひとりになる。

 慣れない場所と環境に心細さを感じて、咄嗟に保名さんの服の裾を掴んだ。

「あ、あのっ」

「離せ」

 ぱっと手を振り払われ、彼の手が当たった場所がじんと痛む。

 思わず自分の手を握り締めて彼を見上げると、明らかにしまったという顔で見返された。

「……悪い」

 小さく告げた保名さんは、私と目を合わせずにその場を去った。

 追いかけられるはずもなく、ずきずきと痛みだした胸をそっと手で押さえる。

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