子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 答えたいのにうまく言葉を出せず、さっき振り払われたのも忘れて彼の服の裾を掴む。

 怖かった。嫌だった。助けてほしかった。

 保名さんが来てくれて安心したのに、かつてお礼を言えなかった時と同じく、ありがとうも言えない。

「……わかった。無理に泣き止まなくていいから」

 そう言うと、保名さんは私の手を引いて会場の外へ向かった。

 大きなドアを出ると、外は中と違って静かだった。昼間とは違うひんやりとした空気に満ちていて、会場の温度との差に驚かされる。

「泣いてるだけじゃわからないんだけどな」

 はあ、と溜息が聞こえて肩が跳ねた。

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