子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む

「普段通りにやっただけだよ。気持ちいいって思える家にするのが私の仕事だと思うから」

 家の中でも外出先でも、彼はよく私を褒めてくれるようになった。

 実家で褒められた経験がなかったのもあり、くすぐったい気持ちになっていつも反応に困る。

 保名さんは私が今日も戸惑ったのを知らず、手に持っていた布の袋を軽く持ち上げた。

「今日は栗餅をもらってきたから、夕飯の後に食べよう」

「えっ、久黒庵の栗餅? ずっと食べてみたかったの」

 弥子と母がお茶をする時に好んで食べていたそれは、久黒庵の創業時から味が変わらないという伝統的なお菓子だ。

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