子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 呟いた声は、これまで発したどれよりも震えてか細い。

 側にいられないなら、せめて彼の幸せを祈ろう。弥子は私に対しては厳しいけれど、母や手伝いの人々には優しいから、保名さんもきっと幸せにしてくれる。

 でも、叶うのなら私が彼と生きてみたかった。

 絆創膏をくれて、おまじないをかけてくれた優しい人。外出にも許可が必要で、いまだにすべてを管理されている私が、寂しい日々の中で救いにしていた唯一無二の存在。

 またあの人の手に触れてみたかった。名前を伝えて、呼ばれてみたかった。

 あの時は言えなかったありがとうを、彼の目を見て伝えたかった。

 彼が結婚するのは私ではない。

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