子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 どんな痛みでも、保名さんのおまじないが私を守ってくれる。

 ――痛いの痛いの、飛んでいけ。

 すっかり耳に慣れた彼の声を思いながら唱えると、会場の正面にある一段高くなったステージに保名さんが登場した。

 マイクの前に立った保名さんと目が合う。

 ほんの僅かに逸れた瞳が、私以外のなにを捉えたのかはわかっていた。

 不快なものを見た、とでも言いたげに眉根を寄せたのは本当に一瞬だけ。

 再び保名さんは私に視線を戻し、笑みを浮かべるでもなくマイクの高さを自身に合わせた。

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