子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
 私の実家の事情を知る保名さんは、何かとこうして甘やかそうとしてくる。

 喫茶店に入ったのだって、私が表にかかっていた『かき氷始めました』の文字に足を止めたからだ。

 そんな彼の前には、陶器の器にたっぷりの寒天とあんこが盛られている。

 目にも楽しい鮮やかなピンクとグリーンの求肥に、瑞々しいみかんと、ころんとしたシロップ漬けのさくらんぼ。

 期間限定のメニューでも、店のおすすめのメニューでもなく、王道のあんみつを頼む辺りが和菓子屋の息子らしい。

「いただきます」

「ん。いただきます」

 私が手を合わせると、保名さんも後に続いた。

 スプーンを取り、ふんわりした氷に埋める。

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