子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
「座敷童かなんかだと思ってたから、なんとなく記憶に残ってただけだ」

「私、本当にうれしかったんです。あんなふうに優しくされたのは初めてで。そうだ、あの時ありがとうを言えなかったんです。今も昔も、ありがとうございました」

「馬鹿馬鹿しい」

 切り捨てるような鋭い言葉に、くっと息が詰まった。

「人として当たり前のことをしただけだ」

 気まずそうに付け加えると、保名さんは救急箱を手に持ち、私へ背を向けた。

「片付けは俺がやっておくから、部屋に戻れ」

「……はい。ごめんなさい」

 もう保名さんは私と目を合わせてくれなかった。言葉を交わすのも嫌だというように、遠ざかっていく。

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