私だけを愛してくれますか?
コンコン
コーヒーを持って結城さんが部屋に入ってきた。
「話はうまくまとまりそうですか?」
コーヒーをテーブルに置きながら、心配そうに問いかけてきた。
「大丈夫や。結城、今日の午後のスケジュールは調整できるか?」
「今日の午後は、催事部との会議が二時から入ってますね。まさに、『夏・京都』の進捗確認でしたが、吉木さん、時間変更は可能ですか?」
進捗確認は今しているようなものなので、会議自体必要がない気もする。でも、この後どう転がるかわからないので、今日中にもう一度話をした方がいいかもしれない。
「大丈夫です。何時にずらしますか?」
「四時で頼む」
「承知しました」
私も『いわくら』に交渉しなければならないので、会議が遅くなるのはありがたい。
四時なら大体の状況を知らせることができるだろう。
「結城、『いわくら』に連絡して、若旦那にアポ取ってくれ。そうやな。午後一時で。二時間もあったら、話はまとまるやろ」
え、副社長が『いわくら』に行くの? なんで?
「副社長が『いわくら』に行かれるんですか?」
結城さんとの会話に割り込む形になってしまったが、聞かずにはいられない。
「まぁ待て」と私を制し、「頼んだぞ」と結城さんとの会話を終わらせた。
結城さんが出ていった後、副社長はコーヒーを飲み、ゆったりとソファに深く座り直す。私は、そんな副社長に苛立ち始めた。
なんで優雅なティータイム?それどころじゃないでしょ!
私は、会社では表情を変えない無愛想な人間で通っているが、実は、喜怒哀楽が激しいタイプだ。
既にイライラし始めていたので、表情に出さないように気をつける。
至近距離に人がいると、感情を隠すのが難しい。
「私もいただきます」
断りを入れて、気持ちを落ち着かせるためにコーヒーを一口飲んだ。
「おっさん連中と阿保ボンの尻ぬぐいは大変やな。吉木」
コーヒーを吹き出しそうになり、慌ててハンカチを取り出して口に当てた。
おっさん連中と阿保ボンの尻ぬぐい!?
「なっ、なんてことをおっしゃるんですか!」
「だってそうやろ。阿保ボンのわがままに大の大人が振り回されて。出店をねじ込まれた挙げ句、突然のキャンセル。それでも文句一つ言わへんお前が一番大人やな」
副社長は呆れたように笑った。
私はもはや表情を隠す余裕をなくし、驚いた顔で副社長を見ていた。