追放されたチート魔導師ですが、気ままに生きるのでほっといてください
 香草を摘んでいたのか小さな籠をぎゅっと抱きしめている少女は、すっかり腰を抜かしてしまったようだった。尻餅をつき、水中でもがくように手足をばたつかせながらバジリスクに背中を向けて逃げはじめた。

「まずいわね。一番やっちゃダメな逃げ方だわ」

 そもそも遭遇すること自体が稀なのだが、バジリスクと遭遇してしまったときには絶対に背を向けて逃げてはならないと言われている。

 彼らは逃げる獲物から襲うという習性があるのだ。故に、正面を向いたまま相手を刺激しないようにゆっくりと下がらなければならない。

「プ、プリシラちゃん、なんとかしないとあの子がやられちゃう」

「わかってるわよ」

 プリシラは人差し指と親指を咥ると指笛を鳴らした。

 彼女を中心にさざなみのように笛の音が広がり、森の木々に降りていた水滴が激しく飛び散っていく。

 プリシラが奏でたのはただの指笛ではない。「音」を媒体として聴覚に働きかける「聴覚魔法(スオンド)」の「獣止め」という魔法だった。

< 22 / 85 >

この作品をシェア

pagetop