君が好きだと気づくまで

2.まさかの再会

 駅員さんが常駐している部屋で、私たちは何があったかを聞かれた。
 助けてくれた人が証拠写真まで撮っていたため、男は痴漢を認めた。
「ついてねぇな」
 警察に連れていかれる際、舌打ちしながら男は言った。
 その言葉に、私は腹の奥が燃えるような怒りを感じた。
「絶対起訴して有罪にしてやる」
 とこぼした言葉に、
「つよ」
 少年のような笑顔を浮かべ、助けてくれた彼は笑う。
 その笑顔に見覚えがあった。まさか、との思いで「遠山(とおやま)?」とかつての後輩の名を口にする。
「え、やっぱモモ先輩?」

 当たってしまった。

 後輩に助けられたというのと痴漢されているところを見られたというダメージが大きすぎて、思わずその場にへたり込んでしまう。
 遠山いつきという名のこの後輩は、小中と学校が同じで一時期は通っていた塾も一緒だった。
 後輩の中では可愛がっていた方だ。たまに見せる甘えたな一面が可愛かった。それ以外は生意気だったけども。
「災難だったね」
 と座り込んでしまった私の手を引く。
 いつの間にか大きくなっている手に少し緊張する。
「でも先輩に痴漢する人なんていたんだね。いやぁびっくりびっくり」
「私だってびっくりしたよ」
 今まで一度も遭ったことなかったのに。
 深刻そうな響きが一切ないからか、さっきまでの恐怖がどんどん消えていく。
「誰でもよかったんじゃないかな」
 自分で言っておいて少しへこむ。魅力がないことは十二分にわかっている。わかっているけど、落ち込まないわけじゃない。もし少しでも魅力があるのなら、痴漢は嫌だったけど自尊心がちょっとだけ救われる。
 自嘲だとバレたのか、
「……先輩って変なとこで自虐的だよね」
 とため息をつかれた。
 自覚がある分サクッと心に刺さる。

「彼氏にでも振られたの?」

 何度も言われ続けてきたワードに、ぷちん、と頭の中で何かが切れた。
 それがスイッチになってしまったのか、はたまた切れたのが感情につながるモノだったのか、ぼろっと涙腺が決壊した。
「うぇっ!?図星だった?」
 遠山が焦った声を出す。
 ラッシュが過ぎたとはいえまだ周りに人がわりといるというのに、涙は止まろうとしない。
 マスカラとれる。化粧が崩れる。今すぐ化粧室に入ってそのまま家までワープしたい。
 ぐちゃぐちゃになった思考を抱えながら何も言わずにいると、ずぼっと何かで頭を包み込まれ、視界が狭くなる。
 一瞬何が起きたかわからなかった。
「かぶってていーよ。とりあえず場所移動しよ」
 帽子だったのか、と(つば)をつまむ。
 彼の優しさが心に()みて、また涙が溢れた。
< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop