君が好きだと気づくまで

8.待ち合わせ

約束の時間の十五分前。
待ち合わせの公園前で、ぼうっと子どもたちを眺めていた。
その姿が、かつての後輩と重なる。

「昔は可愛かったのになぁ」
「へぇ。今は?」
「ひぁっ!?」

いつの間にか後ろに立っていた遠山は、耳元で声をかけてきた。
会わないうちに人との距離感がバグってしまったのだろうか。
「びっくりした……おどかさないでよ」
「ごめんごめん。まさかそんなに驚くとは思わなくて」
という言葉がだんだん萎んでいく。
「先輩、今日めっちゃ気合い入れてます?」
あんたのペースを乱すためだよ、とは言えない。それにその指摘はあながち間違いじゃない。
「……気合いっていうか、普通はちょっとくらいおめかしするんじゃないの」
なんて答えれば正解だったのかわからないが、すくなくともこの解答はマルではないだろう。
待ち合わせ場所に着く前に美術系の専門学校に進んだ友人と落ち合い、メイクと服を合わせてもらったのだ。
ナチュラルに、だけど普段よりは確実に整った顔に仕上がっている。
でも「可愛い?」なんて聞くガラでもないし、そのうえそんなこと言って「普通」とか言われたらショックを受けると思う。
「……めかすときは、前もって言ってください」
「は?なんで」
「心臓に悪いから」
と手を口元にあてる彼の耳が赤くなっている。
つられて、私の耳も熱をもっていく。言葉よりも態度に出る彼の反応に、単純な私は「お洒落してよかった」と思ってしまう。
というかその恥ずかしがる仕草こそ前もって言って欲しい。
やっぱり駆け引きなんてものは向いてないみたいだ。計画としては成功だけど、結果は相打ちといったところか。

「それじゃ……いきますか」
ぎこちないリードに、あの夜のヤツはどこへ行った!とツッコミたくなる。こんなピュアな雰囲気出してなかったくせに。
「あ、ねぇ。そういえば何見るの?」
と動き出したばかりの足を止める。
すると彼はニッと笑った。

「先輩が好きだけど嫌いなヤツ」


***


なるほど、と納得してしまった。
「周りに見れる人がいなかったわけね」
彼のとってきたチケットを目にするなり、私は「はいはい」と言いたげな顔になったと思う。
「ホラー映画って、意外と見る人少ないんすよね」
「まぁ、ホラーは好きよ」
よく覚えてたな、と目を見張る。
たとえ見る相手がいなかったからとか、一人だとなんとなく嫌だから、という理由で呼び出されたとしても、何年も前の私のことをまだ覚えていてくれていた、ということに関しては悪い気はしない。
「ホラーものの映画って見たことないんだよね」
「そうだったんですか?」
意外そうな顔をされた。
そんなにオカルトが好きそうなのだろうか。ハズレではないけど、そのイメージは払拭してほしい。
「ホラーはクッション抱えてみるのがいいのよ。決してポップコーン片手に見るもんじゃないわ」
「妙なこだわりですね」
「そう?こだわりといえば、遠山は感動する映画はできるだけDVD借りる派じゃなかった?」
「よく覚えてましたね」
そりゃ、泣くのを人前で見られたくないなんて会話をしたんだから、と言葉にしそうになった。

──覚えてるわけないか。

懐かしさとほんの少しの寂しさに口元が緩まる。
「まぁ、記憶力はそこまで悪くないからね」
「へぇ。でもクラスの男子の名前と顔が一致しないとか言ってませんでした?」
「人の顔を覚えるのは苦手なのよ」
と他愛ない話をしながら、私たちは薄暗い室内に入っていった。
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