奏でる愛は憎しみを超えて ~二度と顔を見せるなと言われたのに愛されています~


その頃、奏にも突然義弟ができるという思いがけないことがあった。

京太(けいた)という、奏より4歳年下の高校生が間野家の養子になったのだ。

彼は、父の妹の子だから従兄弟にあたる。
叔母は一度結婚したが、京太を連れて数年前に離婚していた。
今回、格式ある家の当主と縁あって再婚話が進んだのだが、先方の意向で相続争いになりそうな子連れは困るとやんわり拒否された。
叔母はわが子よりも再婚を選んだので、京太は間野家に迎えられた。

従兄弟同士、顔を合わせる程度の付き合いはあったが仲がいい訳ではない。
幼い頃ならともかく、今更どう付き合っていけばいいのかお互い手探りだった。
二人は両親の前では仲良く見せたが、心を許す相手にはなれなかった。
それは相性の問題かもしれないが、どうしようもなかった。

母の敦子も複雑な気持ちを抱えていた。
いつものように夫の独断で決められた養子だ。
ひとり息子の奏のサポート役と思えばいいが、なにかあった時は困る。

もし奏の足を引っ張ったり、後継者に決まっている奏を排除したりしたらと思うと母の不安は尽きなかった。

そのジレンマが更年期と重なって、敦子は次第に情緒不安定になっていった。
夫への不信感。義理の息子になった京太の存在など、なにもかもが鬱陶しく思えるのだ。

梨音を含めて何人か才能のある音楽家を育てていたが、次第に敦子の心から音楽への情熱は失われていった。


< 15 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop