凄腕パイロットの極上愛で懐妊いたしました~臆病な彼女を溶かす溺愛初夜~
「あ、なんでもな……」

 言い終わらないうちに、barカウンターに手をついて気怠そうにしている椎名さんがこちらに振り向いた。

 視線が交わり、心臓がドクッと大きな音を立てて跳ねる。

 椎名さん、今日はここでステイなんだ。

 パイロットの飛行スケジュールはシフト制で必ずしも決まった航路を往復するわけではない。国内線の場合は日帰りで復路便に乗ることが多いのだけれど、午後からの勤務だった場合、フライト先で宿泊するという場合もある。

 椎名さんが目を見張って動きを止めたのを見て、姉がたどたどしい口調で空気を読まない発言をした。

「えっ……芸能人? 菜乃、知り合い?」

 見当違いのことを言う姉の横で、私は「違うよ!」と声を潜めながらも強い語気で伝える。

 私たちの会話が聞こえていませんように……そう願いながら椎名さんの横を通過しようとしたのだが。

「違っていたらすみません。新川さん、ですか?」

 そっとうかがうように掛けられた声に心臓が飛び出そうなほど驚いた。
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