白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 マーマデュークの死後、再度現国王から結婚の打診が来ていたことなどローザベルも知らないだろう。占いを元に彼女の婚姻を決めたのは両親と父方の曾祖母だ。星の導きだと宣っていた彼らだが、アイカラスからすれば、旧大陸からのこのこと現れた王を名乗る統治者に古代魔術のすべてを与えないため御しやすそうなウィルバーを相手に選んだのではなかろうかと訝ってしまうのも無理はない。

 甥の結婚式の場で黒髪翠眼の美しい花嫁を前にしたときは惜しいことをしたと思ったがいまさら彼女を溺愛する若い彼から花嫁を奪うつもりもない。
 だが、すこしくらいは楽しませてもらってもいいではないかとアイカラスはほくそ笑む。愚鈍だが一生懸命な憲兵団長と、秘密を抱えた女怪盗の捕物帖の正体が、夫とその妻によるおいかけっこだと目の前の男が知ったら……

「そうだ。花の離宮をお前に貸そう」
「はい?」
「結婚してもう一年とはいえ、なかなか夫婦水入らずの時間を取れていないのだろう? いま暮らしている邸に妻を残しておくより、ふたりでいる時間を有効に使えるのではないかね」
「それは、ありがたいご提案ですが……なぜでしょうか?」
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