白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~
怪盗アプリコット・ムーンとウィルバーが愛する薔薇の花嫁

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 麻縄で両手を縛られ、目隠しをさせられいまにも破れそうなみすぼらしい布切れを纏っただけの女が大勢の憲兵服の男たちに連れられ、王城の門を抜け、薄桃色の薔薇咲く煉瓦造りの小道を引きずられていく。
 向かう先は王都の中心部にある時計台広場。ふだんは小鳥たちが水浴びに来る噴水は止められ、その周囲には野次馬の姿がずらり。

「怪盗アプリコット・ムーン。謀反の罪で火あぶりの刑に処す!」

 縛られた状態のまま、磔台に固定され、怪盗アプリコット・ムーンの無惨な姿が晒される。
 罵詈雑言と石礫を投げつけられ、頬や肩に傷が走り、ぶわりと赤い血の粒や青い痣が浮かぶ。何を言われても攻撃されても反応しない女怪盗は、ひとりの憲兵に目隠しを外され、身動きのとれない状況下、これから炎で焼き殺されることを悟ったのか、黒ずんだ深緑色の瞳をしばたかせた。
 取り調べの際にうっかり(・・・・)自白薬を過剰摂取して廃人と化してしまった彼女は、周囲の反応をまったく気にすることなく、ふい、と顔をあらぬ方向へ向ける。

 ひとりの憲兵と瞳があった。
 彼は、スワンレイク王国の憲兵団長、ウィルバー・スワンレイク。
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