白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 明るいはずの空色の瞳は死んだ魚のように濁っていて、女怪盗の姿を視界に入れるのを拒むように俯いている。

 二代目国王崩御と三代目国王フェリックスの即位によって、取り調べ中だった怪盗アプリコット・ムーンの処遇は劇的に変化する。
 国王アイカラスが死んだのは古代魔術を操る胡散臭い魔女、怪盗アプリコット・ムーンが無事に捕らわれたいまも憲兵団長を誑かし、自分の思い通りに物事をすすめているからだという同胞からの密告で、彼女の罪状に王殺しが加わった。
 憲兵団長の取り調べでは埒が明かないと新たに玉座に座った国王フェリックスはウィルバーが持っていた自白剤をすべて空にしてから怪盗アプリコット・ムーンを奪い、王城にある地下牢へ閉じ込めた。そのうえ、心を閉ざした彼女へ口封じと称してリヴラの秘薬も飲ませ、死を賜る。魔法耐性のある人間でも必ず内側から滅ぼさせるという究極の毒薬によって、心なき怪盗アプリコット・ムーンは声を奪われ、聴力を失い、心だけでなくすこしずつ自分を形作っていたものを内側から壊されていく。

 だが、身体組織が壊死していくのを見届けるほど、新国王は気が長くなかった。
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