白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 神殿内に存在したという、罪人を捕らえる檻をはじめ、拷問部屋、処刑場のことを美しい監獄、と口にした王は黙り込むウィルバーを見下ろし、口角を持ちあげる。
 そして、逃げ出せないよう退路を断つ。

「ウィルバー・スワンレイク憲兵団長。今回の失敗は見逃してやる。次はないと思え」

 花の離宮に移り、職務を遂行せよと命じれば、彼は頷くしかないのだ。


「これは王命だ。怪盗アプリコット・ムーンを生け捕りにして、花の離宮の監獄につなげ!」


 アイカラスはその命令に素直に頷く甥を見て、密かに溜飲を下げる。
 ウィルバーが去ってからも、王は玉座にとどまり、瞳を閉じてしずかに物思いにふけっていた。


 ――賽は投げられた。
 自ら女怪盗を捕らえその正体が自身の愛する妻だという真実を知ったときウィルバーは何を思うだろう。
 それでも彼は、秘密を抱えていた妻を愛せるだろうか……?
< 22 / 315 >

この作品をシェア

pagetop