白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

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 盛大な祝福を受けた新郎新婦は披露宴に姿を現すこともなく、忽然と消えてしまった。あのバカが、と毒づいているのはウィルバーの異母兄で第一皇太子のフェリックス。おおやりやがったなと喜んでいるのが同じく異母兄の第二皇太子ゴドウィン。あらあらどうしましょうねとみゃうみゃう猫のような声で泣いている生後三ヶ月ほどになった赤ん坊のライナスをあやしながらうろうろしているのが新郎新婦の義姉となったオリヴィアで、その息子のダドリーは九歳にして失恋の傷を負って漢泣きに泣いている。
 その様子を楽しげに見つめる宰相ジェイニーは、隣でじっとしている国王アイカラスに問いかける。

「ローザのあたまを飾った“ヴィオレットユーニ”には、もう魔力が残ってません。王妃さまのティアラをなぜ、彼女に……?」
「エセルが望んだからだよ……かつて娘のように可愛がっていたノーザンクロスの姫君が、公の場で婚礼を行ったんだ……エセルは持ち主不在のティアラを、似たような立場の娘に与えたかったんだろうな」
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