白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

 魔女の娘として世間から隔離されて育てられた秘密の令嬢。それがいまのローザベル・ノーザンクロスだ。ウィルバーに見初められ、盛大な結婚式を行ったことで存在を認められた彼女は、アラヴスで魔女の末裔の娘として虐げられて生きていたエセルと境遇が近いと言えなくもない。スワンレイク王国国王アイカラスが彼女と愛しあって羽ばたいたように、ウィルバーもローザベルと深く愛しあうことで、灰色の白鳥から純白の白鳥へと羽ばたいたのだ。

「あと、ジェイニー。わしに隠していたことがあるだろう」
「はい、なんのことでしょう?」
「余命五年と言ったな」
「あら、ご存知でしたか」
「……まあよい、五年もあればフェリックスへ玉座を譲り悠々自適な隠居生活もするくらいのゆとりは残っているだろう。ともに来るか?」
「――国王陛下」
「考えておいてくれ。フェリックスに左遷させられて仕事がなくなる前までに決めればいいさ」
「ありがたき幸せ」

 ジェイニーは深く頭を下げて、主人の言葉を噛みしめる。
 スワンレイク王国全体が沸き立ったウィルバーとローザベルの結婚式は、こうして幕を下ろし……
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