白鳥とアプリコット・ムーン ~怪盗妻は憲兵団長に二度娶られる~

「ご忠告ありがとう。だけど陛下には秘密にしておいて。“やりなおしの魔法”とはいえ、王さまの首を据えかえるようなことはしないから」

 ほんのすこし、ウィルバーの不確定な未来を糺すだけだからと心のなかで呟いたのがわかったのか、ジェイニーは呆れたように口角をあげる。

「国家を揺るがす事態を強制終了(・・・・)するのが“やりなおしの魔法”の本来の使い方だろ? 加減を間違えたら、ローザ、お前死ぬぞ」

 いちおう、心配はしてくれているのだろう。深い森の色に染まっているローザベルの双眸をのぞきこむように、ジェイニーの銀色の瞳が左右にぶれている。
 ローザベルは彼女に無言で微笑み、踵を返す。

「おい! ローザ、旦那のこと愛してるんだろ? ひとりでバカなことして消えるんじゃねぇぞ!」

 すこしだけ沈んでいたローザベルの心が、幼馴染のジェイニーとの邂逅で浮き上がる。

 ――まったく。天の邪鬼なんだから、ジェイニーったら。

 彼女の姿が見えなくなってから、くすりと笑って、ローザベルは本日の滞在場所となるオリヴィアの居室の扉をノックするのだった。
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