天敵御曹司は純真秘書に独占欲を刻み込む~一夜からはじまる契約結婚~

「私の立場のせいで、龍一郎にだけ辛い思いをさせた。本当に申し訳なかった」
静かに頭を下げ続ける斎藤氏に龍一郎さんは、いろいろ頭が混乱しているのだろう。何も言葉を発しない。
静かに頭を上げた斎藤氏に私は一つ質問をしたくて、自分の右手に触れた。

「あの、この指輪をご存知ですか?」
そっとお母様の指輪を抜くと、机にコトンと置いた。
それを斎藤氏は手に取ると、懐かしそうにそれを撫で涙を浮かべた。

「晴香……。まだ持ってたのか」
その言葉だけで充分だった。斎藤氏とお母様は本当に愛しあっていた。そして会社のために身を引いたお母様はきっとどれほど辛かっただろう。しかし龍一郎さんという大切な息子がいたからこそ、一生懸命に人生を生き抜いたと思う。

自分の死期を悟り、断腸の思いで斎藤氏に龍一郎さんの援助を頼みながらも、斎藤氏の幸せを最後まで祈っていた。
それほど愛していたのだ。龍一郎さんを愛した今ならわかる。

「どうして今?」
黙って私たちの話を聞いていた龍一郎さんが静かに俯いたまま口を開いた。
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