仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

どこか遠くで男女の声が聞こえる。

「おい、早くしろよ。仮面を外せ」
「やだ、なにこれ火傷の痕?気味悪い」
「部屋を暗くすりゃいいだろ、とにかく服も脱がせて既成事実を」
話してる途中でコンコンとノックの音が聞こえた。
「誰だこんな時間に。お前も早く服を脱げ。失敗したらどうなるか、わかっているだろうな?」
「わかったわよ、もう」
ふてくされたような女の声と、遠ざかる足音。

「ん……」
意識が浮上し、ズキズキと激痛が走る頭痛に眉根を寄せたユーリスは、近くでごそごそと動く人の気配に目を開けた。
「あ、目が覚めちゃった。やばいわ」
女が慌てたように自分のブラウスを脱ぎ下着姿を曝すとユーリスのネクタイに手を伸ばす。
咄嗟にその手を払ったユーリスは女を睨みながら起き上がった。
ランプひとつの薄暗い中、それでも女の姿がはっきりわかり自分たちはベッドの上にいるのだと気づいた。
「なにをする!お前は誰だ」
「なっ、なにって、これからいいことしようとしてるのよ。全部あたしがするしあんたは寝ててくれりゃいいから」
「触るなっ」
すり寄ってこようとする女と揉み合いになり女をベッドに押し倒す形になると、ニヤリと笑った女におぞましさを感じて慌ててベッドから立ち上がった。
「はあはあ、ここは、どこだ」
荒い息を吐き辺りを見回すとひとつの窓と小さなデスクにベッドと狭く質素な部屋のつくり。全く知らない場所だ。
どうしてこんなところにいるのか訳も分からず頭痛で朦朧としていたが、とにかく出口に向かおうとした。
そこに女が立ちはだかり自分のスカートに手を掛けるとすとんと落ちた。
「待ってよ、あたしあんたに抱かれないと後でひどい目に遭わされるんだから。ねえ、気持ちよくしてあげるからあたしを抱いて」
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