仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
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警察からのユーリスに対する事情聴取の要請を勝手に尽く蹴っていた皇帝だが、解決の糸口が欲しい警察長官の説得と、ユーリスの協力したいという訴えについに折れた。
『話を聞くだけだぞ、ユーリスは決して犯人ではない。疑ってかかればどうなるかわかっておろうな?』
ドスの利いた脅しをかけた皇帝は焦ってこくこくと頷く長官を見て渋々ユーリスを送り出すことにした。
特別に宮殿内で行われた事情聴取は、犯人はユーリスに似たような白い仮面をしていることから、ユーリスに関わる人物の犯行だろうと警察も睨んでいて事細かに身の回りで不審なことはないか恨んでいる者がいないか聞かれた。
恨まれる覚えはないのだが、疎まれることは多いのですべて正直に答えると小一時間で聴取は終わり、皇帝に報告に行くと渋い顔をしていたがご苦労だったと労いの言葉を掛けられ今日はそのまま帰ることにした。外に出たユーリスは陽が落ちて間もない藍色の空を見てほっと息をついた。
自分の役目は終わった。あとは警察が犯人を捕まえてくれることを祈るばかりだ。
心配してるだろうフローラの許へ早く帰ろうと思ったが、待機しているはずの馬車はなく探すように歩き出すと呼び止められた。
「ヒルト伯爵、皇帝陛下よりお送りするように仰せつかっております。あちらに馬車がありますのでお越し下さい」
初老の男性に言われ、付いていくと門を出た脇に一般の辻馬車があり、なぜ玄関前に待機してないんだと疑問に思ったが、皇帝は目立たないように配慮してくれたのだろうと推測しそのまま乗り込んだ。
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