仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
***

その晩、ユーリスはヒルト邸に帰っては来なかった。
フローラは一睡もせず朝を迎えてしまい信じて待っていてほしいと言ったユーリスを心配するもちょっとだけ恨めしく思う。
心は浮かないまま、今は家庭教師を務めるために馬車に乗り宮殿へと向かっていた。
ほうっとため息をつくとちょうど馬車は止まり御者がドアを開けた。
馬車から出ると何やら警察官たちが宮殿内を慌ただしく出入りしていて首を傾げた。
後宮に向かうと貴族の男女がなにやら深刻な顔で話しをしていた。
「昨日も例の殺人事件が起きてしまったようだ。今回は強姦された上に絞め殺されたと聞いた。惨いことをする。これで四人目だ」
「なんて酷い。犯人は女性の敵ね、怖いわ」
「今回は証拠品があったそうだよ。白い仮面が遺体の傍に落ちていたそうだ。目撃証言と一致している」
「それって、もしかして……」
「おっと、名はまだ出さない方がいい」
ふたりの後ろを通ったとき、それを聞いてフローラの足は止まった。
「殺人現場となったホテルの近くに手袋も落ちていたそうだ。犯人に関係あるかもしれない。へったくそな花の刺繍が施されていたから仮面同様持ち主はすぐにわかるだろう。事件解決は近い。これで陛下のお気に入りも破滅だ」
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