仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
犯人は誰かわかっていそうな男性は含み笑いをして怖がる令嬢の肩を抱き歩き出す。
「ねえその話、誰から聞いたの?」
「それは……」
遠ざかっていく男女の会話が聞こえなくなって、フローラは足が震えて動くことも振り返ることもできず、両手で顔を覆った。
また痛ましい事件が起こってしまった。
しかし、白い仮面のことは前々から噂があったから驚かないにしても、近くで見つかったという手袋に身に覚えのあるフローラはユーリスが昨日帰ってこなかった理由と関連があるのではと考えて身震いした。
ユーリスに会って確かめなくては。
決して犯人はユーリスではないとわかっていても、会って話をして安心したい。
動かなかった足を叱咤し一歩を踏み出すと、堰を切ったように走り出し後宮へ向かった。

後宮に着くと一目散に皇妃に会いユーリスが帰っていないことと事件のことを話した。
皇妃も事件のことは皇帝より聞いていたが、証拠品の仮面と手袋のことは知らなかったらしく深刻な顔をしてしばし黙っていた後、ついてきて、と応接間を出た。
慌ててついていくと皇妃は後宮を出て執務棟がある中央宮殿へと向かった。

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