仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
重厚な扉の前に二人の近衛兵が守っていて皇妃がその前に立つと恭しく礼をした。
皇妃はドアをノックし遠慮なくドアを開ける。

「マリー?どうした?」
「ジェイ……、やはりいたわね」
皇帝が執務室に入ってきた皇妃に目を丸くしていると、その後ろにフローラの姿を認めて眉を上げた。
皇妃の目は皇帝でも、その傍にいたスペンサー侯爵でもなく、ソファーに座るユーリスを見ていた。
皇妃に促され入ってきたフローラに気づいたユーリスは驚愕した顔でガタンと音を立てて立ち上がる。
「ユーリスさま」
「フローラ、なぜここに」
いつもの仮面ではなく包帯をした顔で明らかに狼狽えているユーリスにフローラはずきりと心が痛んだ。
顔を片手で隠したユーリスは顔を背け逃げるように窓辺に立った。
「マリー、フローラ、どうしたんだい?」
「ジェイ、誤魔化さなくてもいいわ。昨日の事件、ユーリスが関わっているのでしょう?フローラがとても心配しているわ」
「心配することは何もない。ほら、ユーリス、迎えが来た。フローラとともに帰るがよい」
「陛下!なにを言っているんですか?」
驚いたのはユーリスで信じられないとでもいうように皇帝に詰め寄る。
「あー、いいのか?さっきのことフローラに話してしまうぞ?」
「ぐ……」
言葉の詰まったユーリスに勝ち誇ったような皇帝の顔。
スペンサー侯爵は笑いを堪えているのか肩が震えている。
まるで深刻さの欠片もない光景に、皇妃とフローラは目をぱちくりさせた。
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