仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「でも、なぜ今この絵を描く気になったんだ?」
皇帝が聞くとユーリスは照れたように目を伏せる。
「もうすぐフローラの誕生日なのでこの絵をプレゼントしようと」
「ユーリスさま……」
不自由な右手で描くには筆を持つのも苦労したことだろう。なのに無理をしながら絵を描いてくれていたユーリスにフローラは感動して瞳が潤んだ。
しかし浮気を疑ってしまったなんて申し訳ない。
「まあ、浮気はなかったのだから今回は許してやるが、隠し事はやはりよくないぞユーリス」
「浮気なんてするわけがないでしょう。生涯愛するのはフローラだけです」
「ほお~」
感心したよなからかうような皇帝に渋い顔をしたユーリスはフローラに向き直る。
「しかし、不安にさせてしまったのは悪かった。フローラ許してほしい」
「いいえ、勝手に妄想して落ち込んでいただけですのでユーリスさまは悪くありません。私こそ疑ってしまってごめんなさい。こうやって絵を描いていてくれてたなんて、うれしいです」
やっとホッとしたフローラの笑顔にユーリスも皇帝も安堵する。
どんな理由があろうと妻を泣かせるのは言語道断と思っていたが、妻を喜ばせるための隠し事なら仕方がない。
今回だけはお小言だけで済ませてやろう。
見つめ合うふたりを置いて皇帝は部屋をそっと出て行った。
皇帝は上機嫌だったが、その後フローラの重大告白を聞き逃してしまった。

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