仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
「フローラさまはきっとユーリスさまの素顔を見ても逃げたりしないと確信しております」
「その自信はどこから来るのだ」
いやにきっぱりと言い切るベリルをユーリスは訝しげに睨む。
「長年生きてきた歳の巧とも言いましょうか。ここは老い先短い爺の意見を聞いてフローラさまと親しくしてみてはくださりませんか。私はユーリスさまの幸せな結婚を見届けてから死にとうございます。でないと天国にいるご両親に顔向けができません」
父の生まれる前からヒルト家に仕えてきたベリル執事はユーリスの落としどころを熟知している。
両手を組みいつになくウルウルさせた瞳で見つめられユーリスは言葉に詰まった。
「う……わかったよ、少しは、努力、してみる……」
途切れ途切れに話すユーリスはばつが悪そうに目を逸らした。
自分の結婚を待ち望んでいるのは重々承知している。両親のことまで出され乞い願うように言われるととても弱い。
しかしベリルに死んでほしくはないがこればっかりはひとりでどうこうできるものではない。
女性の扱いは元々得意ではないユーリスは結局嫌気が差してフローラは逃げていくに違いないと思うと重いため息しか出なかった。

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