仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
部屋に戻ればまたもやフローラの活けたバラが出迎えた。
花を愛でる趣味はなかったのだが、確かにシンプルに設えてある部屋に華やぎをくれると思ったユーリスはバラに近づき香りを嗅いだ。
すっと甘い香りが鼻腔をくすぐり、それと同時にフローラの笑顔が浮かんでドキリとする。
(どうしたのだ私は)
ユーリスは胸の鼓動を落ち着かせようと仮面を取りひとつため息をつく。そして早々に眠ろうとベッドに入った。
ふと横を向けばカーテンの隙間から月明かりが注ぎバラが淡く光っているのが見えた。
それを見てまた胸がとくとくと主張し始めた。
またあの女性を襲ってしまう悪夢を見そうで悩まし気に眉根を寄せたユーリスは目を瞑り無理やり頭の中からバラとフローラの笑顔を追い出した。
……つもりだったのが、しばらくバラもフローラも脳裏に居座りなかなか追い出されてはくれなかった。
フローラは花に癒されると言ったがこれでは癒されるどころか眠れない。
しかもなぜかセドリックまで出てきてフローラと笑顔を交わしているのが頭に浮かんで胸がもやもやとするものだからますます眠れない。
悪夢を見ないで済んではいるが、ゴロゴロと寝返りを打ってはため息をつくユーリスなのであった。


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