仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う
あまり眠れなかった上に酷い夢を見たユーリスは目覚めの悪さに気が立っていた。
人の気配に眉根を寄せ目を向ければレース越しに明らかにベリルではない女性の姿が目に映る。
サイドテーブルに置いた仮面に手を伸ばしてるのに気づいて頭に血が上った。
「まさか、私の素顔を盗み見るつもりだったのか!?」
「ちっ、違っ……」
ユーリスは自分の焼けただれた右側の顔を爪を立てるように覆った。

『顔を見せていただくのは、いつかユーリスさまが本心から本当の姿を見てほしいと思ったときでいいのです。そして見せていただくときは笑ってください』
『笑え、だと?』
『はい、私は、ユーリスさまの笑顔が見たいのです』

そう言っていたはずのフローラが寝室に忍び込み無防備に寝ている自分の顔を見ようとした。
こんな状況で笑えるはずもない。あのとき言ったフローラの言葉は嘘だったのだ。
少しでも信じてみたいと思った自分に腹が立つ。
「やはりお前もこのおぞましい顔を見たいのだろ!」
みんなそうだ、仮面の下の素顔を見たがりそして見れば気味が悪いと目を背ける。
それでいてどれだけ恐ろしい形相をしているかと他人に自慢げに話し噂を広げる。その行為が人を傷つけているとわかろうともしない。
もううんざりだ。
フローラも結局は怖いもの見たさでここに来ただけ。仲良くなりたいと言ったのもこのためだった。

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