誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は私の行動を読んで、美鈴ちゃんに聞いてくれていたようだ。日持ちもするので、日下部君の言う通りにカステラにしよう。お土産を買うついでに部屋で食べる可愛らしい練り切りと金魚の入ったキラキラゼリーを自分用に購入した。

お土産の紙袋を手に持ち、老舗の旅館まで歩く。日下部君はさりげなく、私のお土産の袋を取り上げて右手に持ち、反対側の左手で私の手を繋ぐ。日下部君と二人きりの時は、本当に恋人同士みたいなんだけどなぁ……。

「あ、弟からだ。出ても良い?」

日下部君のパンツの後ろ側のポケットから、バイブ音が鳴り出した。私に断りを入れてから、スマホを耳に充てる。

『何だよ、何か用かよ?……はぁ?今、出かけてるから行かないし。明日?明日も無理!』

冷たく言い放ち、一方的に電話を切っていた。年の離れた弟君にそんな冷たい態度はどうかと思うわ……。

「はぁっ。マジで有り得ないから。実の母親から呼び出しだ。ただ単に集まって、ワイワイやりたいだけだから行く必要もないけど……。迷惑な話だ」

実のお母さんからの呼び出しならば、もしかしたら義理の弟君から?
実のお母さんは彩羽コーポレーションの社長さんだよね?以前、日下部君が副社長義理の弟君から、会社を継いで欲しいと言われたと言っていたけど……。そう考えると、推測するに社長さんだと思う。入社したばかりで会った事はないが、きっとそうだ。
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