誘惑の延長線上、君を囲う。
「苦手な食べ物ってある?」

陽翔君は好き嫌いがあるかどうか確認しようと思って、カウンターキッチンからソファーに視線を向ける。返事がないのは思春期特有のものかと思っていたら、スヤスヤと寝ていた。手にスマホを持ったまま、腕をだらんと伸ばし、ソファーいっぱいに背を伸ばして寝ている。ソファーから、はみ出した足は見るからに長い。

冷房のせいで、お腹が冷えないようにとタオルケットを持ち出して、かけてあげる事にした。今時の男子高校生は女子同様にスタイルも気にしているのか、痩せすぎな位にほっそりしている。

寝顔がまだおどけない。素っ気ない態度をとっていても、している事は子供そのものだ。

私はキッチンに戻り、夕飯の支度を再開する。お風呂の準備と夕飯作りが完了し、日下部君が帰宅しても尚、陽翔君は寝ていた。

「うわっ、玄関先に男物の靴があったと思ったら、陽翔が来てるのかよ」

日下部君は帰宅して直ぐに、玄関先の見慣れないスニーカーに気付いて陽翔君を確認した。

「私が帰って来たら、玄関前で待ってたの。何時から待って居たかは分からないけれど、暑い中、待ってくれて居たから、中に通したよ。日下部君には泊まりは駄目だと言われたって言ってたけど……、可哀想だったからね」

「メールとか電話をくれれば良かったのに」

日下部君は、私に向かって不貞腐れたように言った。「ごめんね、夕飯の支度とかで忙しくて……」

本当はいつだって、チャンスはあったけれど、一度断りを入れている日下部君ならば、追い返すに違いないと思い、あえて連絡をしなかったのだ。事情があってお兄ちゃんを頼って来てくれたのに、追い返す訳にはいかない。

「琴葉が嫌がるんじゃないかと思ったから断ったんだけど……、大丈夫?無理してない?」

「驚いたけれど、大丈夫だよ。気にしないで。陽翔君にとっては、私の方が居候だろうから」

あれ?待てよ?一緒に住んでいる事、知らないんじゃないの?
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