誘惑の延長線上、君を囲う。
「とりあえず、場所を移動しようか?」

慌てている伊能さんは周りをキョロキョロと見渡して、ひらめいた様に近くのコーヒーショップへと私を連れて行く。伊能さんは座る場所を見つけて私を誘導してから、コーヒーを二つオーダーしてから戻って来た。

伊能さんは、スーツの裏ポケットからハンカチを取り出して私に手渡した。ハンカチを握り締めて使うのを躊躇している私に「あ、大丈夫ですよ。予備のハンカチなので、使用して無いものです」と言って慌てていたる。借りたハンカチが汚れているかも?と思った訳ではなく、化粧で汚してしまうかもしれないからと躊躇していたのだが……、逆に気を遣わせてしまった。

「そ、そうだ!こっちなら、さっき貰ったばかりで綺麗ですから大丈夫です」

営業バッグのチャックを開き、ガサガサと取り出したのはポケットティッシュ。広告の入った真新しいティッシュの蓋を開けた。ティッシュを一枚引き抜き、私の目尻へとポンポンと軽く押し当てる。昨日から泣き過ぎた為、瞼や目の縁が痛い。

無意識に顔が近付いた。俯き加減だった瞼をふと開いた時に目が合う。
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