誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は私にどういう答えを望んでいるのだろうか?日下部君の言葉を鵜呑みにして、期待して、叶わなくなった時に傷つくのは私だ。

「琴葉がはぐらかしてばかりいるから、面白くない」

現状維持が良いとは言えない。現在の関係性を打破したいけれど、解決策が見当たらない。自分の胸の内を告げたら、もしかしたら、日下部君は受け入れてくれるかもしれない。……けれども、秋葉さんの存在がチラついて気になるうちは私自身が落ち着かない。心のどこかで、日下部君の私への気持ちを疑ってしまうから。

「……だって万が一、日下部君の気が変わったら、私はどうなるの?」

「気が変わることなんてないよ」

「そうかな?人の気持ちって、流されて変わる事だってある」

現に日下部君が私の行動に流されて、同棲までするまでに関係性が変わったじゃない?これから先も、人の気持ちに"絶対"など無いのだ。移りゆく季節と共に人の気持ちも移り変わる。

「そうかもしれないな……。だからこそ、琴葉と一緒に居たいと思ってるんだよ」

カラン。日下部君はグラスを揺らしながら、中の氷をグラスの内側にぶつけては音を出す。グラスを見つめながら、話す日下部君はどこか儚げだ。涼やかな目元とすっと通った鼻筋の部分に前髪がかかっていて、より一層、儚げな雰囲気を加担している。
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