誘惑の延長線上、君を囲う。
そんな日下部君を隣で見てはドキドキが止まらない。私は学生時代からずっと日下部君に片思いしていて、その日下部君が『未来の旦那様』まで言ってくれているのに、素直に飛び込んでいけない。大好きだからこそ、これ以上、傷つくのは嫌。自分がまいた種だけれど、日下部君の居ない未来なんて考えたく無い。重症化する前に、終止符を打ちたいのに……打てない。

日下部君と一緒に居たい。離れたくない。……けれども、私のモノだと言う確信も無い。頭の中が混乱していて、答えを見い出せない。

「な、何回も言ってるけどね、……あの日の事を後悔して懺悔したいだけなら、もう充分だから。ありがとう、日下部君。私はおひとり様にも慣れてるし、元の生活に戻っても大丈夫だから」

「はぁ?」

日下部君は鋭い目付きで私を睨み付ける。ゾクゾクと身体中に悪寒が走る。完全に怒らせてしまったようだ。今まで、こんなに怒っている日下部君なんて見た事が無い。

「この際だから聞くけど、琴葉は俺の事を何だと思ってるの?嫌なら、琴葉から身を引けば良いじゃん?それなのに、俺に従うってどういう事?裏を返せば、俺が独り身で寂しそうだから、構ってあげてるって言いたいの?」

「ち、違う……!それは、誤解……!」

「違わない」

「違う、絶対に違う……!私は日下部君が、すっ、」

否定しつつも、危うく口を滑らせてしまう所だった。慌てて口を押さえた。好きだなんて、言えない。好きだなんて、言うのが怖い。
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