誘惑の延長線上、君を囲う。
「俺は琴葉と一緒に居るのが楽しい。夫婦になってもきっと上手く行くと思ってる。……琴葉が素直になってくれればね?」

先程の態度とは裏腹に穏やかな目で私を見て、ふんわりとした手付きで頭を撫でて、微笑む日下部君。ギャップがヤバい。一気にドキドキが加速して、全身が火照っていくみたいに熱を帯びる。

「琴葉は俺にもっと、言いたい事を言ってよ。聞きたい事も聞きなよ」

隣に座っている日下部君が急に距離を縮めて来て、顔が近い。空のグラスを両手で持っている私に気付いて、「何が良い?持って来るから」と言ってグラスをヒョイッと私の手の内から奪った。私は「甘めのカクテル」を頼んだ。

何度も抱かれていて裸も知っている関係性なのに、不意に近付かれると心臓に悪い。ふとした瞬間の何気無い仕草や態度が、私にはキュンキュン来るのだ。

「はい、甘めのカクテル」

日下部君はコースターの上にカクテルを置いて、指でスッと目の前まで押した。オレンジ色のカクテル。

「スクリュードライバー?」

「うん、御存知の通り。生のオレンジを絞ってジュースにしたものだから、より一層、美味しいと思うよ」

背の低い太っちょのグラスの横には飾り切りをしたオレンジが添えてある。一口含むと、オレンジのみずみずしい甘い味が口に広がる。

「美味しい!ありがとう、日下部君」

オレンジ生搾りのスクリュードライバーは初めて飲んだ。クセになりそうな位、美味しい。

「日下部君は何飲んでるの……?」

先程と同じロックグラスに透明な液体。

「飲んでみる?」

グラスを差し出されたので、口に含むと思いがけないものだった。

「水じゃん!何で……?」

「ちょっと飲みすぎてるから、休憩」
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