愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「皮膚が剥がれる可能性があるのは、病院で知ったのか?」
阿古羅が自分の目の前にある蛇口を回して、ハンカチを濡らしながらいう。
「いや、前に剥がれそうになったことがあって。病院には連れてってもらえないから、自分で試行錯誤するしかなくて、よく手当てとか失敗しそうになるんだ」
「まさか、行ったら虐待のことが医者にバレる可能性があるからか?」
蛇口の水を止めた阿古羅が、俺の火傷してない方の肩を掴んで言う。
「うん」
弱々しい声で俺は頷いた。
「はあ? なんだよそれ! そんなの可笑しいだろ!」
阿古羅が俺を睨みつけて、声が枯れるくらいデカい声で叫ぶ。
その態度はまるで、この酷い環境から逃げる気もなくしている俺の代わりに怒っているみたいだった。
阿古羅のその異様な剣幕に驚いて、俺は思わず後ずさった。
俺は目を見開いて、阿古羅を見た。
なんだこいつ。なんでこんなに怒ってるんだ?
たかが同級生の家の異常さに、どうしてそこまで怒れるんだ?
理解できない。
俺は阿古羅の態度にとても困惑した。
「……警察呼ぶか?」
阿古羅はとんでもない提案をしてきた。
慌てて首を横に振る。
「よっ、呼ばなくていい。むしろ呼んだら、もっと状況が酷くなる。父さんに、すげぇ暴力振るわれる」
「は? なんで?」
「……たぶん居留守使われて、警察がいなくなった瞬間暴力振るわれるハメになる」
「だったら、今日から俺の家に住め!」
「は? 何言ってんだよ? 住むわけないだろ」
馬鹿げている。
虐待をされているからって会ったばかりの奴を家に泊めようとするなんて、とても正気の沙汰ではない。むしろ異常だ。
「住むって言えよ!」
ハンカチを持っていない方の手で俺の肩を掴んで、阿古羅は叫んだ。
阿古羅の声にびびって、俺は思わず身体を縮こませた。
「なんで」
「だってこのままだと、お前、下手したら殺されるぞ?」
俺の肩をぎゅうっと握りしめて、阿古羅は言う。
「殺されてもいい。むしろ死にたい。毎日あんなことされてたら、ちっとも楽しいと思えないし」
口から出たその言葉は、本心だった。