愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「絶対だぞ。俺はもう誰も失いたくないんだから」
俺の頬を触って、阿古羅はいう。
予想外の言葉に驚いて、涙が引っ込む。
「阿古羅、其の言い方はまるで」
「――前に誰かが死んだみたいだってか? そうだよ。俺は母親を失くした。母さんは、俺の目の前で自殺した。だから人が死ぬのがすげぇ怖いんだ」
言葉を失う。
随分今までいってたことと行動に説得力がある言葉だ。
これがもし嘘だったら、俺はどうしたらいいんだろう。
阿古羅の俺を抱きしめる手が、小刻みに震えていた。
この態度すらも嘘だったら、どうしたらいい?
――怖い。
全部嘘だったらと思うと、怖くて仕方がない。
それでも俺は仮面を取り繕った。
怖がってるのを決して悟られないよう気を張った。
嘘でもいいから一緒にいたいと、この温もりが無くなったら嫌だと思ったから。
「はい、海里」
阿古羅が監視カメラが付いてなかった方のぬいぐるみを俺に差し出す。
「え、もらっていいのか?」
「ああ。もともとあげるつもりだったから。何、カメラ付きの方がよかった?」
「それはいらない!」
「はいはい。大事にしろよ?」
「うんっ!」
俺は差し出されたぬいぐるみをぎゅうっと握ってから、ポケットに入れた。
もらえてよかった。
俺はこのぬいぐるみと阿古羅の言葉があったから父親に反抗出来たようなもんだから。まあ少ししか出来なかったけど。
再びタクシーを呼ぶと、その運転手は、さっき金を要求しなかった人だった。
「君、自殺やめたのか?」
窓を開けて、運転手は言う。
「はい、友達に自殺止められて。乗せてくれますか?」
「ああ。止められてよかったな」
そういうと、運転手はボタンを押して、後部座席のドアを開けた。
「……はい」
「これ、さっきの」
そう言って、運転手は俺に一万円札を差し出してきた。
「あ、いいです。今回の会計をそれにしてください」
「わかった。……それならおつりは目的地に着いた時に渡す」
そういうと、運転手は一万円札をポケットに入れた。
「海里、お前、金なんか持ってたのか?」
阿古羅が首を傾げて聞いてくる。
「……母さんがくれた。自殺に失敗したら帰ってきてって言って」
運転手に聞こえないよう、小声で言う。
「よし燃やすか、その金」
予想外の発言に驚いて、俺は目を見開いて阿古羅を見た。
「ぶっ、物騒」
「だってそんなん偽善の塊でしかねえじゃん」
「まあそれはそうかも。燃やさないけど」
金は燃やしたらダメだ。
「どんな理由でもらった金でも、大金は大金だからな」
そういって阿古羅は足元にあった小石を蹴った。
小石はチャポンと海の中に落ちた。