愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「え、いいよそんなの」
「気にしなくていいから」
阿古羅が笑って言う。
俺は必死で首を振った。
「いいいい!」
「わかった。なら一人用の布団かソファ買いに行こう。そんで二人で横に並んで寝ようぜ」
「……うん、ありがとう」
俺は作り笑いをして頷いた。
「ああ。そういえば、まだ言ってなかったな。おはよう、海里」
「……お、おはよう」
驚きながら、俺は挨拶を返した。
びっくりした。父さんはいつも怖い顔でしてくるか、あるいはしてくれないかのどっちかだし、母さんは父さんが事故を起こしてから仕事を沢山するようになったから、朝起きたら家にいないのが大半で、ろくに挨拶をしてなかったから。
「どうした? そんな驚いて」
阿古羅は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……びっくりして。誰かにちゃんと挨拶されたの一年半ぶりだから」
俺は髪をいじりながら、言葉を返した。
「え、嘘? 母親は?」
目を見開いて、阿古羅は尋ねる。
「……母さんは仕事を掛け持ちしてて、そのせいでいつも数時間しか会えなかったから、挨拶なんてもう全然してない」
「……そっか。海里の母さん、何の仕事してんだ?」
「水商売とスーパーの店員」
「掛け持ちなんだ?」
「うん。俺が朝起きる時間よりも早い時間から夕方までスーパーで働いて、夜の零時くらいから朝の五時まで水商売やってる」
俺の言葉に阿古羅はまた目を見開く。
「なんでそんな働いてんだ?」
「……俺が十歳の時に父さんが事故起こして、損害賠償金払うために借金を作っちゃって。それで、父さん今もその返済に苦しんでるから、母さんが三人の生活費と俺の学費払ってて」
父さんが保険金目当てで俺に虐待をしていることはわざと伏せた。話したくなかったから。
「もしかして海里の父親が虐待してるのって、保険金目当て?」
「え、なんでわかったの」
まさか当てられると思ってなくて、かなりびっくりした。
「俺の母さん、死亡保険入ってたから。ほら俺一人っ子だから、自分が死んだら父親と二人っきりになちゃうから、せめて金だけでもとか考えてたんじゃねえの? まあ最終的に自殺したから、入ってるの無駄になったけど」
思わず言葉に詰まる。
どうしよう。何か言わないと。