愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「あ、阿古羅、これ、足しにして。生活費の。少ししかないけど」
ズボンのポケットから母さんの財布を取り出して、阿古羅に差し出す。
「あ、いいよ。大丈夫」
首を振って、阿古羅は笑った。
「え? なんで?」
「その金は生活費として使わなくていいから、好きなモノでも買えよ。その方がお前のためになる」
「でっ、でも……」
「大丈夫、金ならあるから」
阿古羅は問題ないとでもいうように笑った。
「……ありがとう」
俺は戸惑いながらも礼を言って、財布をしまった。
俺達はそれからすぐに歯を磨いて、俺はベッドで、阿古羅はクローゼットにしまってあった寝袋で寝た。
ちなみに寝袋も紫だった。
やっぱり紫が多すぎる。
いつの間にか、俺は車の助手席に座っていた。
「えっ、ここって」
どうなってるんだ。阿古羅の家にいたはずなのに。
もしかして、夢か? 誘拐でもされない限りは急にこんなことになるなんてありえないし。
「海里、よくも逃げ出してくれたな」
「父さん?」
運転席には父さんが座っていた。
父さんは俺の首に縄を掛けると、それで俺の首を締めた。
「うっ、あっ」
息ができない。首が圧迫されて、呼吸困難に陥る。
これはあまりに酷くて、現実味のない夢だ。俺が死んだ時に虐待がバレるのを懸念してる父さんが、俺を縄で締めようとするわけがない。
「海里! 海里!!!」
誰かに肩を揺さぶられて、俺は現実に引き戻された。
目を開けると、目と鼻の先に阿古羅の顔があった。
「あっ、阿古羅?」
阿古羅がとても心配そうに俺の顔を覗き込む。
「大丈夫か? すごいうなされてたぞ?」
「ああ、ありがとう」
ゆっくりと身体を起き上がらせ、ため息をつく。
またうなされてたのか。まあ夢の内容かなり酷かったしな。
俺は虐待が酷くなってからほぼ毎晩ああいった悪夢にうなされている。
「海里、ベッド寝心地悪かった?」
「いや、そんなことないと思う。気にしなくていいよ、俺がうなされてるのは日常茶飯事だから」
俺は枕元にあった白猫のぬいぐるみを触りながら言った。
「いや気にしないとダメだろそれは! ベッドじゃなくて問題は虐待か。はあ。俺が兄だったら、海里を守ってやれたのに」
「……ありがとう。その言葉だけで充分」
「海里、ダブルベッド買い行こう。そんで今度から二人でベッドに寝よう。そうしたら海里が悪夢にうなされた時、俺がすぐに気づけるから」