愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
風呂場とダイニングのしきりになってるドアを開けてダイニングの中に入る。テーブルの前にいた阿古羅が俺に気づいて、笑って声をかけてきた。
「お、海里お帰りー」
「うん、ただいま」
「海里、さっきお前の母親から電話来てたんだけど」
阿古羅はテーブルの上にある俺のスマフォを手にとって、顔を顰めた。
「えっ」
母さん?
「うわっ!!」
阿古羅からスマフォを受け取ろうとした瞬間、母さんから電話がきた。
まるで、図ったかのようなタイミングだ。
「出なくていいんじゃないか?」
俺の顔色を伺いながら、阿古羅は言う。
「……いや、出る」
阿古羅からスマフォを受け取り、恐る恐る通話に応じる。
「もしもし、母さん?」
『海里? よかった! 無事なのね!』
「うん。とっ、友達に自殺止められて」
友達と俺は言った。阿古羅がそれを聞いて、どんな反応をするか確かめたかったから。
たぶんスパイなら、大して反応しない。
スパイじゃないなら、きっと驚く。
阿古羅は目を見開いて俺を見てから、口角を上げて嬉しそうに笑った。
スパイのハズなのに、まるで友達と言われて嬉しいとでもいうかのように、阿古羅は反応した。
一体どっちなんだよ。
阿古羅の態度を見て、俺はまた混乱した。
「スピーカーにしろ」
混乱してる俺の頭を撫でながら、小声で阿古羅が言う。俺は頷いて、言われた通り通話をスピーカーにした。
『そっか。……あのね海里、お母さんあの人と離婚するから』
スピーカーにした途端、母さんが信じられないことを言った。
「え、なんで?」
『今朝ね、お父さんが海里の学費を払うのに使ってた私の口座から、勝手にカードを使ってお金を全額引き落としたの。学費を滞納して、海里を退学させるために』
――退学。
どうやら、恐れていたことが起きたらしい。
阿古羅のことを考えていたのに、一瞬で思考が退学のことで埋め尽くされる。
予想していたことのハズなのに心臓の鼓動が速くなって、身体が震えた。
突然、阿古羅が俺の手からもの凄い勢いでスマフォを奪う。
「又聞きしててすみません。海里の友達の零次です。……あの、例えばですけど、俺がお母さんに金を渡したら、その金で海里の学費を払うことは可能ですか」