仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
結局その晩、私と風雅は一緒に眠ることになった。
駄々をこねる風雅に「指一本触れるな」という条件を出して。
本気でごねる風雅が幼児より面倒くさいと私は知っている。不本意極まりないけど、条件を提示して呑むうちに譲歩するのが得策だった。

Tシャツにスウェットパンツというラフな格好の風雅は、遠足前の子どもみたいに嬉しそうだ。薄手の初夏用の掛布団を、先に横になっている私の身体にかけてくれる。

「希帆、そんなに端っこ行っちゃ駄目。落ちるよ」
「風雅があと一メートル向こうに行ってくれたら、位置移動するわ」
「一メートル先はベッド外ですが」

私はベッドから落ちない最低限の場所であり、風雅から距離を取れる最も遠い場所で、虚無の心地で天井を眺めた。

一週間前ここで押し倒され、怒り、その一週間後にまた同衾してるって、あまりに隙があり過ぎじゃない? 
自問し、風雅が実力行使に出ないことを祈りつつ、一刻も早く眠りが訪れるのを待つ。

風雅は横でしばらく、「希帆の匂いがする」「希帆のシャンプー、良い匂いだよねえ」「シャンプーといえばさあ」などなど埒もない連想ゲームみたいなトークを繰り広げていた。適当に相槌を打っているうちに、その声が聞こえなくなり、首を巡らせれば寝息をたてる風雅がいた。
私はそっと身体を起こし、風雅の肩に掛布団をかけなおした。寝ている顔はあどけない。高校の頃とあんまり変わっていないなあ。

この男が大会社の次期CEO。私の夫。
柔和な笑顔の下に、冷徹で執念深い本性を隠した支配者。

だけど、私にはどう見ても腐れ縁の元クラスメイトでしかない。強いて言うなら、今隣で眠ってしまった風雅は、弟がいたらこんな感じかなという親愛を覚える。
私に気を許しているのだろう安らかな寝息を聞いていると、隣で安眠できそうに思えた。



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