仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
その日の二十一時過ぎ、私は仕事相手とPC画面で通話をしていた。
楊美芳という女性で、私より五つ上。
私が最初にお世話になった家族経営の内装会社の専務をしている人だ。フリーランスになった現在も、仕事を紹介してくれる頼りになる女性である。

「キホ、あなたが日本に留まるなら、それなりにマネジメントするけれど」

美芳は言う。向こうで仕事をしていると、シーファンという中国語読みで私を呼ぶ人は多い。彼女は丁寧に日本の発音で私を呼ぶ。

「もし、そうなったら、あなたにマネジメント料をがっつり払わなきゃ。美芳はやり手だからふんだくられちゃうね」

私は中国語で返す。もう一台のパソコンで出来上がった指示書を、他の取引先に送りながらだ。

「そんなにふんだくらないわよ。キホは家族みたいなものだし」
「嬉しい。私も美芳はお姉ちゃんみたいに思ってる。だから、楊家の近くにいるわ。これからも」

美芳は自身の仕事の書類をばさばさとまとめて、画面越しに私を見つめた。

「楊家はいつでも歓迎よ。でも、キホは結婚したんだもの。今までとは立場が違うでしょう? 旦那さんはいいの?」
「いいと思う。もともと家同士の繋がりで結婚したようなものだし」

私は唇をもぞもぞさせて弱々しく弁明した。
家族を大事にする土地柄の人たちだ。夫を置いて台湾に戻ろうとしていることを責められているように感じ、それが事実であることに暗澹とする。

「台湾に戻るわ。私のホームはもう台北のあのマンションだもの。今後も台湾で暮らす」

罪悪感を振り切るように、決意を込めて言った。
そうだ。元からそのつもりで風雅と結婚したのだ。私が譲ることはないはず。
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