クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
「父親がいないって言うのは語弊があるわね。離婚しただけで父親という続柄の人はいるらしいんだけれど、雅己が物心つかない時に外に女を作って出て行ってしまったそうなのよ。だから、雅己にとってはいないようなものなんですって」
「そう、だったんですか…」
「一人で呉服問屋を切り盛りせざるを得なくなった代表取締役―――雅己のお母様は、そこから血の滲むような努力を重ねて女一人で今の会社にまで大きくして、雅己も育て上げたんですって。肝っ玉母ちゃん通り越して女傑よね。はー憧れるわぁ」

専務にそんな生い立ちがあったなんて驚いた。
綾部ホールディングスは代表取締役がご夫婦で大きくしたものと思っていたけれど、専務のお母様がお一人でそんな苦労をして築き上げたものだったなんて。亮子さんじゃなくても尊敬の念を抱いてしまう。

「でもそこまで偉大な母を持つと苦労するのが子の常よね。親を見習って優等生に育つか、プレッシャーに感じてやんちゃに走ってしまうか。残念ながら雅己は後者の方へ行ってしまった。ましてやお母様からかなり早い段階で『跡を告げ』って決めつけられてしまえば、抵抗心が芽生えてしまうのも早かったそうよ。それでクラブ通いなんて始めちゃったってわけ」

そうだったのか…。
あんなに気品溢れる御曹司がどうして夜の街に慣れているのだろう、って不思議だったけれども…専務にもいろいろな思いがあったんだな…。
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