溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
誰だろう。

面識がなく怪訝に思ったが、呼び止められたのは確かなので応じる。

「やはり僕のこと分からないですよね。無理もない、あなたとは何度しかお会いしたことがないから」

そう言われ、しばらく考えて私ははっと気付く。

「北村…さん…?」

微笑んで、男性は頷く。
笑うと目が糸のように細くなるその特徴で確信した。

この男性は、北村広史さん。

私の婚約者だ…。

動揺を隠して、挨拶を交わす。

有名政治家であるお父様と大企業の社長令嬢であるお母様を持つ北村さんご自身も、もちろん政界に進出していて、その柔和で人のよさそうな容姿も手伝って人気上昇中の期待の新人だった。

私のお父様も目をかけていて『十分な後ろ盾がある将来を約束された男だ。彼にならおまえを任せることができる』と太鼓判を押したけれど、政治家同士の思惑も大いに絡んでいるのは明白な縁談だった。

まさに『お人形』らしい嫁ぎ先だった。
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