溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
俺と同様、他の従業員達も感激したようで、他に客がいないのをいいことに芽衣子の周りに集まってきて口々に褒め称える。

着替えを手伝った山田さんが、何故か誇らしげに言った。

「本当によくお似合いでしょう? お客様、お若いのに帯も自分でお締めになったんですよ。着こなしも完璧でしょう??」

芽衣子はいつものように照れながら謙遜する。

「いえ…そんな…嗜む程度に覚えていたもので、久しぶりに練習してみようと思っただけです」
「練習だなんてそんな! 曲がってもいないどころか、皺ひとつないし、素晴らしい出来ですよ」

芽衣子はほっとしたように微笑んだ。
そして、窺うように俺を見上げて、小さく首を傾げた。

「いかがですか雅己さん。私、お着物に着られていませんか?」
「全然」

俺は昂った気持ちを抑えながらゆっくりと首を振った。

「とても奇麗だ。まるで君のためにあつらえたようだよ。本当に、すごくすごく、奇麗だ」

つい声に熱が入りすぎたらしい。
芽衣子は頬を赤らめ、俺達を見守っている従業員達も浮ついている。

そんな従業員達の視線も最早どうでもよく思うくらい感激した俺は、和装の淑女に近付くと、恭しくその白い手を取った。

「まだ買い足りないものはないかい? どうか遠慮しないで言って」
「いえ、もう十分すぎるくらいです。なにもかも素晴らしくて…本当にお母様と雅己さんには感謝してもしきれません」

いじらしい言葉に思わず笑みをこぼすと、俺は何故だか目をうるうるさせている山田さんに向き合った。

「じゃあ今度は俺の物を買わせてもらおうかな。適当なものを見繕ってくれないか。もちろん、彼女の隣に歩くのに相応しい物をね」





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